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No.29 キャパニック事件



私の義母は面白い事に、浅黒い肌のイケメンを見ると「彼は、プエルトリカンにちがいない!」と言います。その代表例が、NFLサンフランススコ49ERSのキャパニック選手で、昨シーズンは義母のお気に入りの選手でした。ところが、先月行われたプレシーズンマッチで、キャパニック選手が「国歌演奏中の起立拒否」をしたことで一転。義母は激怒し「彼は偽善者だ」と言いだしました。



 ハワイに住み始めて、アメリカ人の国歌や国旗に対する敬意は深甚なものなのだなと日々感じています。エヴァビーチに引っ越してからは、近所の軍基地から毎朝8時に国歌が流れるのが聞こえ、それが国旗掲揚の合図だと知りました。また基地内で買い物中国歌が流れた時、運転中の人は車を止め、外で歩いていた人たちは立ち止まっている姿を目の当たりに。さらには、基地内の映画館でも上映前に必ず国歌を流し、全員起立。「ここまでやるか?!」と驚いたものです。また軍だけでなく、時々参加するどんなに小さなマラソン大会でも、スタート前に国歌演奏は絶対欠かさないので、これがアメリカの文化なのだと学びました。



 主人に一体学校で国歌や国旗についてどんな風に教育されたのか尋ねてみると、彼の通ったカトリック系の私立小学校では、国旗掲揚と国歌演奏、プラス米国への忠誠心の宣誓の暗誦は毎朝の日課としてあったそうで、その儀式に対して何も疑問をもつこともなく自然と教育されたのがわかりました。



 義母はキャパニック選手の件で「まず国のために戦っている人たちに失礼よ。また、私は、祖父母がプエルトリコから移民してきたことで、今ここでこうして暮らせているの。ここまで築き上げるのに祖父母や父母たちは大変な苦労をしてきたわ。その苦労のおかげで、私たちは今快適な暮らしができているの。また、アメリカが移民を受け入れたからそんな生活ができている。彼も、今の生活ができているのが誰のおかげかを考えたら絶対に起立すべき」と言うのです。



 それからたまたまグアムに住む義兄(義姉の旦那)と話す機会があり、アメリカの自治領で生まれ育ちつつも、アメリカ人ではない彼は一体どう思うのか聞いてみると、彼も反対派で「彼の主張もわかるが、でも、他の場でそれを訴えればいいわけで、あの場面でするべきではない。彼は大金をもらっている身で、それはサポーターのお陰であり、ゲームを見ている人たちのお陰なわけだから、国歌演奏の時は絶対に起立すべきだ」と言いました。


 そして今度は家族から「日本ではどうなの?」と聞かれ、「日本で国歌が演奏されるのは、入学式と卒業式くらい。あとは、せいぜいサッカーのW杯とオリンピックの授賞式だね」と説明し、さらには、一部の教師たちに「国歌斉唱反対」を訴える人たちもいて物議を醸していると話したら、逆に驚かれました。

   

 最初は、アメリカ人の国歌や国旗に対する熱い思いを”異様”に感じてしまいましたが、今回のキャパニック選手の件で、世論を巻き起こし、皆が活発に意見を言い合う姿を見て、改めて、日本人の自国への無関心さも浮き彫りになった気がして、「そこまで国に誇りを持てるっていいなぁ〜」とちょっと羨ましくもなりました。


*注意* このコラムは、2016年9月に「日刊サン」に掲載されたものです。

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